大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和46年(ネ)203号 判決 1973年4月16日

控訴人 野瀬康

右訴訟代理人弁護士 阿久津英三

被控訴人 江上不二夫

右訴訟代理人弁護士 桝田光

右訴訟復代理人弁護士 田口哲郎

同 武藤鹿三

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人が被控訴人に対して賃貸している原判決添付別紙目録記載の土地につき、三・三平方メートル当り一か月の賃料は、昭和四〇年二月六日以降昭和四二年八月一二日まで金五〇円、同月一三日以降昭和四七年七月一九日まで金八〇円、同月二〇日以降金一〇四円であることを確認する。

控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その四を被控訴人の負担とし、その一を控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を次のとおり変更する。控訴人が被控訴人に対して賃貸している原判決添付別紙目録記載の土地につき、三・三平方メートル当たり一か月の賃料は、昭和四〇年二月六日以降昭和四二年八月一二日まで金五〇円、同月一三日以降は金一五〇円であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

≪以下事実省略≫

理由

一  控訴人が被控訴人に対し原判決添付別紙目録記載の土地(以下、本件土地という。)を賃貸し、被控訴人がその上に木造瓦葺平家建居宅一棟を所有していることは、当事者間に争いがない。

また、≪証拠省略≫によると、本件土地の賃料は、昭和二三年四月、坪当たり月額五円一二銭と定められ、その後増額されなかったことが認められる。

そして、控訴人が被控訴人に対し、昭和四〇年二月六日到達の書面をもって、同年一月一日から右土地の賃料を坪当たり月額五〇円に増額請求したことは、当事者間に争いがなく、次いで、本件訴状をもって、訴状送達の翌日から右賃料を坪当たり月額一五〇円に増額請求したこと、および、右訴状が昭和四二年八月一二日被控訴人に到達したことは、本件記録上明らかである。

二  ≪証拠省略≫によると、昭和二三年四月から昭和四〇年二月までの間に、本件土地の価格、公租公課および近隣の土地の賃料が、いずれも上昇したことが認められ、この事実と、前記のとおり約一七年間本件土地の賃料が増額されなかった事実、および、その間における物価の変動その他の経済事情等を彼此総合して考えると、昭和四〇年二月当時において、本件土地の既定の賃料(坪当たり月額五円一二銭)は不相当になったというべきであり、控訴人は右賃料の増額を請求しうるものということができる。

三  そこで、右に関する適正賃料額について判断する。

1  ≪証拠省略≫によると、本件建物は昭和二三年ごろ建築されたものであることが認められ、また、≪証拠省略≫によると、本件土地は全部右建物(実測床面積が六九・四二平方メートルであることにつき、当事者間に争いがない。)の敷地として利用されていることが認められる。したがって、本件土地については地代家賃統制令が適用されるわけである。

しかしながら、裁判所は、このような場合、同令一〇条に基づき、同令所定の統制額を超えてても、適正妥当な賃料額を決定することができると解するのが相当である(右一〇条の趣旨につき、原判決判示のごとく限定して解する必要は存しない。)。

2  ≪証拠省略≫によると、本件土地につき賃借権がある場合の坪当たり一か月の適正賃料は、昭和四〇年七月一日において金一五〇円、昭和四一年七月一日において金二〇〇円、昭和四二年七月一日において金二〇〇円であるとされている。

そこで、右の鑑定の結果に、本件土地については元来地代家賃統制令が適用される趣旨を参酌し、なお、前示既定の賃料額(坪当たり月額五円一二銭)および右統制令による統制額(坪当たり月額八円六五銭――原判決理由二参照)等を併せ考慮すると、昭和四〇年二月六日現在の本件土地の賃料は、坪当たり月額五〇円をもって相当と考えられる。したがって、本件土地の賃料は、同日以降右の金額に増額されたものである。

3  控訴人は、初め昭和四〇年七月一日以降の賃料につき確認を求め、その後、昭和四〇年二月六日以降の賃料につき請求を拡張したが、右は請求の基礎に変更を来たさないものであるから、許容さるべきである。

四  次に、前記二に掲記の証拠、およびそこに挙示したと同様の諸事情によれば、昭和四二年八月当時において、本件土地の賃料(前段認定の坪当たり月額五〇円)は不相当となるに至ったというべきであり、控訴人は賃料増額を請求しうるものということができる。

そこで、その適正賃料額につき判断するに、前記鑑定の結果、および、右従前の賃料額ならびに地代家賃統制令による統制額(坪当たり月額一二円四〇銭――原判決理由三参照)等を考慮すると、昭和四二年八月一三日現在の本件土地の賃料は、坪当たり月額八〇円をもって相当と考えられる。したがって、本件土地の賃料は、同日以降右の金額に増額されたものである。

五  ところで、「地代家賃統制令による地代並びに家賃の停止統制額又は認可統制額に代るべき額等を定める告示」(昭和二七年建設省告示第一四一八号)は、昭和四六年建設省告示第二一六一号により改正され、昭和四七年一月一日から適用されることとなったが、これによれば、昭和四七年度における本件土地の統制額は、次の算式により、坪当たり月額一〇四円三六銭になることが明らかである(同年度における本件土地の固定資産評価額が固定資産税課税標準額を超えるので、後者が基準となる。その額(都市計画税課税標準額も同じ。)が金一五九万七三〇七円であること、および、固定資産税率が一〇〇分の一・四、都市計画税率が一〇〇分の〇・二であることは、≪証拠省略≫によりこれを認めることができる。)。

右の改正前においては、統制額の基礎となる固定資産評価額を昭和三八年度のそれにしていたため、近隣の統制対象外の地代家賃との格差が著るしく、しかも賃料のうち租税の占める割合が大きくなっていたため、貸主に対して過重な犠牲を強いていたもので、このような実情にかんがみ右改正が行なわれたものである。したがって、この趣旨によれば、右改正告示によって算出される賃料は、現在において一応適正な賃料であると推定するのが相当である。

もっとも、右改正告示が適用されれば、直ちにこれによる統制額まで増額されるものではなく、増額の効果が生ずるためには、貸主により増額請求の意思表示がなされることが必要である。控訴人は、昭和四七年七月一九日の当審第八回口頭弁論において陳述された準備書面において、改正告示による賃料増額の主張をなしたものであるから、これにより右請求の意思表示をしたものと解される。

したがって、その翌日である昭和四七年七月二〇日以降、本件土地の賃料は、坪当たり月額一〇四円に増額されたものである(控訴人は、昭和四二年八月一三日以降の本件土地の賃料が坪当たり月額一五〇円であることの確認を求めているので、右一〇四円の賃料は控訴人の申立ての範囲内のものとして認容することができるわけである。)。

六  被控訴人が控訴人主張の賃料額を争っていることは、本件訴訟の全経過を通じ明らかであるから、控訴人はその確認を求める利益がある。

七  以上の次第故、控訴人の本訴請求は、控訴人との間で、本件土地の三・三平方メートル当たり一か月の賃料が、昭和四〇年二月六日以降昭和四二年八月一二日まで金五〇円、同月一三日以降昭和四七年七月一九日まで金八〇円、同月二〇日以降金一〇四円であることの確認を求める限度で、正当として認容すべきであるが、その余は失当として棄却さるべきである。

よって、これと異なる原判決を変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。なお、本件判決に仮執行の宣言を付することは相当でないから、控訴人の仮執行宣言の申立ては却下することとする。

(裁判長裁判官 山口正夫 裁判官 新村正八 裁判官宮本聖司は出張中につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 山口正夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例